
赤々と燃えたコークスで熱せられた赤々とした地金が整形され叩かれる。
叩く、叩く。トントントントン、トントントン。鍛造された小さな鉄の板は分子レベルで緻密な素材となり700年という伝統の切れ味を帯びる。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久収蔵品といえば、それは世界に傑出したデザインおよびプロダクトの証明書だ。そして2006年に選定された「刃裟美 X&I」と「PLA SCHOLA」は、ここタケフナイフビレッジの生産品だ。福井県出身のデザインディレクター、川崎和男氏と越前打刃物の職人たちで設立された工房タケフナイフビレッジ。700年にわたって受け継がれた火づくり鍛造技術が、世界最先端のデザイン&プロダクトを生み出した。MoMAだけではない。スミソニアン国立博物館クーパーヒューイット美術館、モントリオール装飾美術館での永久収蔵。刃物の世界的な産地、ドイツフランクフルトでの展示会「メッセ アンビエンテ」での高い評価。オランダの5つ星ホテル「ホテルオークラ アムステルダム」での採用。日本以上に世界が認めた、天下一の打刃物鍛造技術を有する産地なのだ。
ただしこの工房、そうした晴れがましい表示や展示はほとんどない。「職人さんたちは、そんなもん面倒だからいらねえ、って言うんですよ。もったいない話ですよね」とは事務の戸谷さん。タケフナイフビレッジ7つのポリシー、うち2つに“「切る」ことを考え、「切る」モノとしての道具感を現代生活に提示していく”“工芸作家作品として刃物づくりをせず、刃物職人として伝統的かつ現代的商品づくりに徹する”とある。見てくれのデザインだけでなく、美しさを裏打ちする高い鍛造技術と心意気。江戸中期に全国に名を馳せた越前鎌の産地がここ越前打刃物の里なのだ。

打刃物は、熱した鉄を叩いて延ばして作っていく技法。
プレスして型抜きしてつくる抜き刃物と違い、強さとしなやかさを備えた刃物ができる。

京都の刀匠、千代鶴国安(ちよづるくにやす)が名剣を鍛える水を求めての旅の途中、この地に留まり刀剣をつくる傍ら鎌も製作するようになったのが始まり。江戸中期から越前鎌の産地で知られ、明治7年の統計で全国鎌生産量の約4分の1を生産していた。