
越前漆器を軽く指で弾いてみると、堅固であって弾力があるのが分かる。
この艶めいた塗りの下にこそ越前漆器の真実が隠されている。
質実剛健。1500年にわたる歴史の中で培われた越前漆器の特長は、一貫して華美に奢らない堅実さの追究にあった。越前漆器がなぜ天下一の産地となったか、それは表面だけからはうかがい知れない塗りの下に隠された途方もない手間暇にある。器の元になる木地づくりでさえ、荒挽き、外挽き、内挽き、仕上げ挽き。仕上がった下地は既に陶器以上の滑らかな肌合いを持つ。そして下地。生漆を塗って乾かし、乾いたら研ぎ、また塗り、乾かして研ぎ、塗りを繰り返す、その数実に14工程。仕上げの前に中塗りと研ぎを経ていよいよ上塗だ。上塗漆にカンプラ油を加え適当な固さにし、吉野紙で濾す。埃を嫌うため、人の出入りをさせない閉じきった部屋での作業。 仕上がった器は強度と弾力、そして艶めかしいほどの滑らかさを持つ。時代がうつり、木地にプラスチック素材を取り入れるようになっても、越前漆器の品質の確かさは、業務用漆器で80%という圧倒的なシェアが証明している。